登場人物
それぞれの体重はどれくらいか?
 実のところ、「体重」に関しては、具体的なものはほとんど本文中に書いてこなかった。主人公のギャメルにせよ、ただ「重量級」という記載をした程度である。あるいは興味を持たれる方もおられるかとも思い至り、ここで少々、その具体的な数値を検証してみよう……と思う。

 あれやこれやと書いているうち、何だかと〜っても長くなってしまった。
 いつもの悪い癖である。
 このページは、一種「空想科学読本」的なエッセイのつもりで読んでいただければ幸いである。
(なお、参考にした本文中のシーンは、リライト版にのみ登場する)

ギャメル  何せ体格が体格であるから、おそらくかなりの重量級であろうとは予想される。
 ではひとつ、通常の人間の何倍ほどにあたるのか? という観点からアプローチしてみよう。
 さて、ギャメルは屈強の闘士タイプであるから、その比較基準としては、ごく普通の一般人ではふさわしくなかろう。そこで、基準となる「人間」としては、身長180cm・体重100kgほどの、かなり筋肉質なレスラーを想定してみることにする。
 ギャメルは9フィート(270cm)の巨漢であるから、180cmの一般的レスラーの1.5倍の身長を持つということになる。
 長さが1.5倍であれば、体積はその3乗倍ということになる。
 すなわち、3.375倍である。
 ここで、両者の身体の密度がほぼ同じ程度と仮定すると、
 100 × 3.375 = 337.5(kg)   という値が導かれる。
 もっとも、これは比較基準のレスラーを、そっくりそのまま相似形で引き延ばした場合での数値である。
 実はこうすると、ある問題が生じる。
 体積と体重は三乗倍になるが、筋肉の断面積は二乗倍にしかならないので、三乗倍の体重を二乗倍の筋肉で支えねばならないのである。言い換えると、筋肉にかかる負担が1.5倍になるのである。つまり、筋肉の量が1.5倍に増えないといけないことになるはずなのだ。
 しかし、ギャメルの筋骨は、常人よりも頑丈で、だいたい1000倍程度の強度であるという設定にしてあるので、1.5倍程度の負担など、まるで問題にもならない。従って、この問題は無視しても差し支えなかろう。
 いや、むしろギャメルの場合、この特別製の筋肉ゆえ、無意味にごつごつと身体が「ぶっとく」なくても良いことになるのだ。平均的なレスラーなどよりは、若干スリムに見えることだろう。
 一割がたシェイプアップして、およそ300kg前後……というところだろうか。

 いずれにせよ、やはりかなりの重量級であることは間違いない。
 下敷きになったアリエスが、「きゅう!」と一発でのびてしまったのも当然であるし、また、「クマを素手で叩き殺した」という逸話にしても、「さもありなん」である。
 北海道のヒグマ君でも、体重は150〜300kgであるし、ツキノワ君なら、もっと小さいのであるから。
 では少し、イメージしてみよう……

 小さなクマ公をふん捕まえ、得意げにポカスカとぶん殴り、ボコボコに叩きのめす屈強な大男!

 ん?
 まてよ……?
 これではとても武勇伝とは言えない。どう考えても、小動物(?)虐待ではないか。
 主人公としてふさわしからぬというだけの問題ではない。彼ギャメルの人となりにもそぐわない。
 これはまずい。
 クマ公の方も、それなりに迫力ある奴でないと、ちと困るというものだ。
 そういうタイプの大熊君は……と。
 おお、いたいた。
 寒冷地に住むホッキョクグマ君たちの中には、1トンを越える大型の個体もいるらしい。
 よし、ならばそれで! と喜んだのも束の間……
 あにはからんや、トリテアは亜熱帯なのである。トリテアグマとやらがいたとしても、かなり小柄なタイプであると思われる。
 マレーグマあたりに近かろうか?
 アリエスのパンチ一発でのされた個体もあったようだし、あまり凶暴でもなさそうだ。
 参考までに、ちょいと調べてみよう。

 マレーグマ 体長100〜140cm、体重25〜60kg
         雑食性で、果物やシロアリ、ハチミツなど、なんでも食べる。
         昼間は木の上で寝ているか、「ひなたぼっこ」をしている……

 ……。
 なんとも愛らしいクマさんもいたものだ。
 完璧に「くまのぷーさん」である。
 いかん。どんどん好ましからざる方向になってきた。
 こんなのを叩き殺したりした日には、動物虐待を通り越して、それこそ鬼畜の所行である。
 まあ、ここは特異体質的に体格の良い、はぐれ化け熊であった……ということにでもしておくとしよう。

 さて、それはともかく、300kgである。
 こうまで身体が重いと、うっかり尋常の椅子などには腰も下ろせない。
 座る片端からぺしゃんこに潰してしまい、弁償代に負われる毎日となることだろう。
 ギャメルが「化けもの亭」ばかりを愛用していた理由の一つは、その辺にあったのかも知れない。
 やはり、がたいがでかすぎるというのも、考えものであるようだ。

 しかし……
「こんなの」を背に乗せたまま、ひょいひょいと塀を跳び越えてみせたり、軽々と時速70マイル(112km/h)ほどの速度を出したりしていたドリュテスたちの「馬力」のほどときたら、まっこと恐ろしいものだ。
 特に、

「このくらいのハンディつけたげて、ちょうどいいくらいだわ」

 と、ギャメルを背に乗っけた状態で、かく豪語してのけた蒼のシルヴァ……
 なるほど、確かに「おじゃじゃ」である。

ジーン・エルク  さて、それではそのギャメルを体当たりの一発で宙に舞わせたドリダリアの豪傑ジーンの方は、どの程度の体重だったのであろうか?

 彼は、巨体ぞろいのドリダリアたちの中でも、「ひときわ巨大」であるという設定である。
 ちょいとした小型肉食恐竜をイメージしていただければ、ちょうど良いだろうか。
 身の丈は、だいたいギャメルの倍程度。直立すれば18フィート(540cm)ほどにもなる。
 要するに、「普通のレスラーの3倍ほど」ということである。
 また、「ドリダリア族は、同じ身長の屈強な人間よりも1.4〜2倍ほどの体重がある」という設定にしてある(尻尾の重さが加わるし、身体の密度も高いので)が……このジーンの場合、その最大値を採用すべきであろう。
 以上の設定を元に、試算してみると……

 100 × 27(3の3乗) × 2(修正値) = 5400kg

 おお! なんとほとんど五トン半! トラック並みではないか!
 こんな生き物ありなのか?
 と、そう思って確認してみたところ、ゾウさんたちとほぼ同じ程度だと判明。
 さほど非常識な数値でもないようで、一安心である。
 ちなみに、かの暴君竜チラノサウルス・レックスも、ほぼこの程度だったらしい。
 ……。
 ちょいと待て。
 何が「ちょいとした小型肉食恐竜」だ。
 それどころではない。立派な大型肉食恐竜ではないか!!!

 なんで始めっからこいつが出ず、格下のゲルヴプスあたりが出たんだ? と、本文を読まれた際に疑問を感じておられた読者諸兄にも、これでその辺の理由がおわかりいただけることだろうか。
 ジーンが相手では、あまりにも「あんまり」なのである。
 当のギャメルは憶せず受けて立つことだろうが、観客の安全保証上の観点からして、当局としてはそんな試合の許可などできようはずもない。巻き添えうんぬん以前の問題として、恐怖でショック死する者すら出かねないではないか。

 とにかく、こんな奴からの体当たりなんぞを、まともにくらった日には大ごとである。
 千人力の屈強なギャメルだったからこそ、ただ飛ばされただけですんだのだ。
 これが普通の「人間」であれば、たちまち全身骨折と内臓破裂で、あわれ白目をむいた轢かれガエルのごとくにぺしゃんことなって悶絶死……
 いや、それでは済むまい。
 おそらく五体はバラバラにちぎれ飛び、そこら中になま温かい血しぶきがの雨のごとくに降りかかって、あたりはたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化すことだろう。(ああ、スプラッタ……)
 ギャメルを弾き飛ばした後、「しとめた」と早合点して油断し、したたかに逆撃を食らう羽目となったジーン。
 どことなく「おまぬけ」な場面だったのだが、実はそうでもなかったようだ。
 そもそもこれほどの体重差だったのだから、彼の態度を自信過剰とそしるのも酷だっただろう。
 むしろ、(いかにアリエスがクッションをつとめたとはいえ)かすり傷の一つも負うでもなく、間髪入れず反撃体勢に転じて、あべこべにジーンの巨体を殴り飛ばしてのけたギャメルの頑丈さと怪力の方こそ、大いに賞賛さるべきものだったのである。

 しかし……
 こんなジーンをつかまえて、「あばれんぼ」だなどと、か〜るく言ってのけていたシルヴァは……
 うむ、やはり立派な「おじゃじゃ」であるな。

ドリュテスたち 「馬人」タイプである彼女たちの場合は、いわゆる「馬体重」を参考とすればよい、のだが……
 やはり女性の体重に関して、このような場所で個々に暴露・公開したりするのは何かと問題だろう。
(あの健脚でパコリと蹴られたりした日には、私の頭の方がザクロ状態となり、「いたく後悔」する羽目になりかねない)
 ここは、実世界の馬体重を、参考までに述べるに留めておくことにしよう。

 競走馬(アラブ種)の馬体重は、400〜500kgが普通である。
 昔、騎士たちを乗せていたヨーロッパの馬は、現代の馬よりもはるかに体格が良く、中には馬体重が1トンを越えるほどのものもいたらしい。(鈍足ではあるが「馬力」は達者で、馬車馬や農耕馬としても優秀だったらしいが、惜しむらくは既に絶滅してしまったという)

 ジレンヌやクリュスタロス、ミネルヴァといった大型の個体はヨーロッパ馬タイプで、キャロやドルヴァといったスプリンターたちはアラブ種タイプ……と、およそおおまかにイメージしていただければよろしかろう。

 いや、ひとり妙なのがいた……
 アラブ種タイプの体型のくせに、ギャメルを乗っけて跳ね回っているシルヴァだ……
「おじゃじゃ」の力量、恐るべし。

  

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