登場人物
初代ジーン・エルクの謎
←さて、左のイラストは、第四巻の口絵である。

 ここで「ぬっ」とばかりに仁王立ちして、足下にうずくまるジレンヌら(クリュスタロスと融合中につき、二身一体の状態・よく見れば「金銀ぶち」であることも見てとれる)を見下ろしているのは、「火竜将」の異名を持つドリダリアの勇将、“ケツアルコアトルス三世”こと、初代ジーン・エルクである。

 このイラストを見た知人が、こんなことを言ってきた。
「何だか今まで持っていた“トカゲ人間“ドリダリアのイメージとは違うけど……すごく格好いい!」と。

 確かに違うはずである。
 なぜなら、この初代ジーンは、ちと「普通でない」特別な個体なのであるから。

 ここでは、彼がどのように「普通でない」のか、それを多少なりとも語ってみることにしよう。

“超硬度”
そして
“超高熱”

◎「普通」のドリダリア族の個体は、ドリュテスたちから「大トカゲ」などと呼ばれているように、いわゆる“リザードマン”のような姿形をしているが、このジーンは見ての通り、かなりいかつく、硬質な「装甲体」ともいうべきもので全身を覆われた姿をしている。
 この「装甲体」は、実際に相当の硬度をもつ。
 劇中、ジーンは幾たびか「衝撃波」を発しているが、その際にも彼自身の五体はびくともしていない。彼の「装甲体」を一部とはいえ破壊することが可能だったのは、ジレンヌの用いた「アグネアの怒り」起爆用の超高熱魔法の直撃弾のみである。

◎また、その肉体の一部が赤熱していることからも想像できるように、かなり高い体温を持っていることがうかがえる。
 実際、ジーンの体温は通常時でも溶岩並みの高温であり、従って、その程度の温度の火炎や魔法弾程度では、彼はぬるま湯をかけられたほどにしか感じない。
 彼の体の表面温度は、通常時でもそれに近づく者を火傷させかねぬほどであり、それ故に彼は、普段は「耐熱服」や「耐熱マント」を装備して、周囲に気を配っている。戦闘時にはこれを外し、その恐るべき熱を利用した攻撃を行うのである。
 この彼の体温は、最高に上げれば、ほとんど恒星の表面温度並みに高めることすら可能であり、これは戦場では実に恐るべき威力を発揮する「大量破壊魔法」となりうる。
 まさに「火竜将」の「火竜」たる所以(ゆえん)であるが、ただし、そのような超高熱は味方をも焼きつくしかねないので、彼はその力を事実上封印しており、滅多なことでは用いるようなことはない。


“ハイブリッド生命体”
としての「亜竜族」
◎このような特徴は、彼が純然たる有機体(炭素型生命体)では無いということを示すものである。
 彼は高度に進化した“ハイブリッド生命体”であり、「血と肉の者」である炭素型生命の部分と、「巌(いわお)なる者」たる珪素型生命の部分とが共存している。そしてその比率は、通常のハイブリッド生命(体内に魔石を“有している”程度の者たち。ドリュテスたちなどがこれにあたる)とは全く逆に、珪素型を主体とするレベルにまで高められているのである。
 まさにそれ故にこそ、彼の体温は溶岩流並みでなくてはならなくなった。いわゆる“常温”の下では、身体が固まってしまって動けなくなってしまうからである。

◎彼はその必要とされる高熱を得るため、その体内に“生体原子炉“とでも言うべき機能を有している。そして、その核反応による熱の供給により、体内の珪素体を流動させていられるのである。
 当然、彼の身体からは常に一定レベルの放射線が出ていることになる。余り側に近づきすぎると“被爆”してしまうことになり、危険なはずであるが……実は、そのことが一種の“試金石”として、ドリダリア族を「大トカゲ族」と「亜竜族」との二種に分けているのである。すなわち、「亜竜族」に進化し、常に放射線を放射している仲間の側にいても死なずにすむ資質を備えた者のみが、その五体をハイブリッド化して「亜竜族」の仲間入りできるというわけである。(むろん、そのような個体は多くはない。いやむしろ希有であるとすら言えるレベルの、超少数派である)

◎「亜竜族」の個体も、生まれたときからそうであるわけではなく、生誕時には普通の「大トカゲ族」と、外見上は何ら変わるところがない。
 彼らはその先天的な資質に加え、後天的な修養とある種の“儀式”によって、その肉体をハイブリッド化するのである。(必ずしも成功するとは限らず、かなりの危険を伴う。失敗は血脈の断絶に繋がるので、“儀式“以前に結婚し、子孫を残しておいてからのこととするのが普通である)
 この肉体のハイブリッド化は、一気に進むのではなく、ある程度の時間をかけて徐々に進行する。(ジレンヌの魔法で焼き切られたジーンの腕の内部が、未だ「肉体」らしき形質を残していたことからも、そのことがうかがえる)

◎最終的には、彼らは炭素型生命としての部分を全て消失(焼失?)し、完全に珪素型生命体へと進化してしまうとも言われている。その後はほとんど「不死」に近い存在となるらしいが、それは別の意味では「炭素型生命としての死」でもあり、その「進化」を彼らがその人生においてどのような位置づけで考えているのかに関しては、余り伝わっていない。(完全に珪素型となってしまった個体は、他の個体との関わりを断ち、火山地帯にこもって“世捨て人”となってしまうのが普通である)

◎孫の世代のルクとジーンの両名も、この偉大なる祖父の資質は受け継いでいるはずであるが、ふたりとも今だ未婚であり、“儀式“を受けるための仕度はできてはいないようである。(つまり、まだその五体のほとんどが「血と肉」であり、いわゆる「肉体」のままの状態)
 

  

★当サイトに掲載されている小説、詩、その他の作品の著作権は三角隼人に帰属します。無断での引用、転載等はご遠慮下さい。★