その3
「熱」系統の魔法

 一般的なファンタジーの分類からすると、「え?」と言われそうな分類ですが……
「炎」とか「火」の系統ではなく、「熱」系統です。
 ルテラ世界では、炎は「燃焼反応」であるときちんと理解されており、「四大元素説」のように単独の元素扱いはされておりません。
 また、「熱」に関しても、それが「熱素」などではなく「エネルギー」であると、きちんと把握されています。
 つまり、ここで紹介する「熱」系統魔法とは、別の言葉で言うなれば「エネルギーコントロールの魔法」なのであります。
 原理としては、「熱交換」(エネルギー交換)を魔法的に行うもの……と考えるとよいでしょう。
 より多くのエネルギーを交換するには、それなりの力量を必要とするのは、いうまでもありません。

★熱源について★

 温度上昇の幅が比較的緩い場合には、その場にあり合わせの熱源体から熱を取ってくることもありますが、そうそう都合良くそのようなものが側にあるわけでもありません。術者の体温を利用すると言っても、自ずと限度がございます。
 そこで、「門」と「魔石」の存在が重要な要素となってくるのです。

「着火」・「発火」
 これまた、「どこが魔法なんだよ?」と言われそうであるが……
 むろん、一般的な「火打ち石」やら「マッチ」やらとは異なる、魔法的な着火現象である。
 より具体的に説明すると、対象物の温度を上昇させ、自然発火するようにすることなのだが……
 はっきり言って、その対象物が黄リンとかでない限り、普通に火を付けた方がなんぼか楽であろう。
 魔法的な「着火」は、対象物に直接手を触れたり、接近せずに行うことが多い。
 つまり、意外に高度な魔法なのである。

 原理を説明すると、以下のようになる。

 ある部分のエネルギーを高めるべく、よそからエネルギーを移動させる。(そう遠くからは移動できないから、たいていは近くのもの、術者自身や、彼らの持つアイテムであることが多い。
 たいていは「門」を通じて異世界のエネルギーを取り出すことで行うが、この際に「魔石」と呼ばれる触媒が存在すると、とても効率が良くなる。
 効率的に発火を誘発するためには、緩やかな熱伝導的なエネルギー伝達ではダメで、「魔法レンズ効果」による熱量の一点集中作用が必要である。(エネルギーが増幅されるわけではなく、むしろ、かなりのロスを起こしてしまうのが普通。そして、そのロス分は「魔石」の温度上昇、ひいては術者の体温上昇という結果を引き起こす)
 うまく熱量を集中させれば、対象物の温度が上昇し、発火点に達する。
 当然ながら、まわりに酸素がない状況下では燃焼は起こらず、温度が上がるだけとなるし、発火点に達するほどの熱量を集約できねば、やはり失敗する。
 対象物が"黄リン”とかであれば、とても簡単なのだが……(笑)

 対象が金属などであれば、発火させることは難しく、たいていは「融解」という結果に終わる。
 大量の金属を融解させたい場合など、著しい熱量を必要とする場合には、「門」を高熱の「異世界」に接続させて、通常よりも多くのエネルギーを取り込まねばならない。
 この場合、その得られる熱量の限界は、その「門」の大きさと耐久度に影響されるが、「門」を開閉する際や、そのコントロールにもエネルギーは必要であるし、「門」通過の際にも少なからぬロスが生じるので、厳重な注意が必要である。あまりにも膨大なエネルギーを通過させてしまうと、「門」が破壊されてしまうこともありえるし、場合によっては暴走したエネルギーが術者に降りかかってくる可能性もあるのだ。無茶は禁物である。
 熱い「異世界」と言ってもいろいろあるが、「火山のマグマだまり」程度ならいざ知らず(それでも十分危険だが)、「惑星の中心核」だの、「恒星の中」だのと「門」をつなげてしまったら……とてもではないが、コントロールなどできるものではない。
 いずれにせよ、この魔法ほど、術者のレベルが如実に結果を左右するものは他にないだろう。

★火を付ける対象の選択次第では、「放火」になってしまうので、注意が必要である。
★自分自身の体温をこのレベルまで上昇させ、いわゆる「人体発火現象」を起こして自害(むろん、他者をターゲットにすれば、立派な殺人である)する者もいたという。この場合、しくじると「ただ煮えただけ」の状態となって、後が見苦しいので、実行にはそれなりの覚悟と力量とが必要である。もっとも、恒星の中心あたりの熱を呼び込めば、一瞬で燃え尽きることができるだろうが……おそらくまわりはえらい迷惑だろう。

「保温」
 対象物の温度が一定となるよう、「熱交換」を行う魔法。
 エネルギーを交換する量が少なめであるので、上記の魔法よりはレベルが低いとされる。

★完全に一定に保つには、かなりの熟練が必要で、かけだしの魔法使いたちでは、たいてい温度を上げすぎたり、冷やしすぎたりしてしまう。それゆえ、この術をどの程度巧くできるかが魔道士のランク試験の項目のひとつになっている。

「冷却」・「凍結」
 対象物の温度を下げるために「熱交換」を行う魔法であるが……
 当然ながら、熱の上昇系統のものよりも難易度が高い。
 そもそもエネルギーには、高いところから低いところに移動する性質(エントロピー増大の原理という)があるので、ある対象から「エネルギーを奪う」というのは、かなり難しいのである。
 わかりやすく言うなれば、この術の実行には、「対象物よりかなりエネルギーの低い状態のもの」、あるいは「対象物の熱を受け取り、それによって何らかの変化を起こすもの」などを用意しておかなくてはならないのである。

 過去においては、極低温の異世界(というと大げさであるが、要するに絶対4度の宇宙空間のこと)との「門」を一時的に開放し、その「門」の内部に熱が流出していくようにさせることで、この術をかなり高度に実行した大魔道士も存在したといわれているが、現代ではそこまでのレベルで実行できる者はいなくなってしまった。(正逆いずれの方向にせよ、大量の熱量を通過させると「門」にも術者にも負担がかかる)

★ ルテラ世界においても、熱力学の第一法則(エネルギー保存の法則)および第二法則(エントロピー増大の原理)などの物理法則は、基本的にはきちんとそのまま通用する……という設定です。従って、それに矛盾するような現象は、いかに「魔法」を用いようとも起こりえない……というのが原則。
★ ただし、「神様」の類が登場したような場合には、いわゆる「奇蹟」というやつでひっくり返されることはありうるかも知れません。(笑) ま、そこは「ファンタジー」だと言うことで……(汗)

★「門」と「魔石」につきましては、別項を用意いたしました。


  

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