その12
戦場における魔法の運用法
その1(偵察・撹乱・情報操作)

 時代によって規模が異なりりますが、戦争と魔法とは切っても切れぬ関係にありました。
 ここでは、戦場とその近辺における魔法の用法について、考察してみることにいたしましょう。


偵察行動のために使用されるタイプ

 戦場においては、正確な情報の把握は欠かせません。
 敵味方の正確な位置を、より正確な形でリアルタイムに知っておけば、それだけ有利になるからです。

 魔法を使わない場合、これは以下のような手順となります。

   斥候もしくは偵察部隊を派遣
   派遣された部隊構成員の、直接目視による確認
   伝令役が直接本隊に戻るか、あるいは伝書鳩や狼煙による情報伝達

 これをくり返しつつ、可能な限りの最新の情報を、本隊に連絡するのです。
 また、最前線で戦っているそれぞれの部隊から、直接伝令が送られてくることもあるでしょう。
 本隊から各部隊への伝達事項も、同等の手段によることになりますが、どうしてもタイムラグが生じますし、また、伝令役や伝書鳩が敵に捕まったり殺されたりすれば、情報は途絶えてしまいます。狼煙による合図も、あまり複雑な内容は伝えられないことでしょう。
 そこで、魔法による情報伝達手段が脚光を浴びることになったのでした。

 このような目的の為に使用することのできる魔法には、以下のようなものがあります。

魔法通信
 現実世界での通信機のような役目を果たします。
 ドリュテスたちのよく使う「通信宝珠」が有名ですが、ドリダリアやカルデリアでも使われています。
 便利な魔法ですが、以下のような限界や欠点もあります。

 通信可能な限界距離および範囲が術者のレベルによってまちまちであること。
 敵方の通信と混信たり、盗聴されてしまうということもありうること。
(高位の魔道士であれば、敵方の通信に、それとわからぬようにでたらめの情報をながすこともできる)

千里眼(遠隔視)
 いちいち斥候や偵察を送り出さずとも、遠隔視で敵情を探ることができる、とても便利な魔法です。

 ただし、それなりの高レベルの術者でなくてはマスターできない魔法であり、術者の精神的な消耗も激しいので、あまり一般的ではありません。
 また、この魔法が効かないエリア(いわゆる「聖域」など)とか、無効化されてしまう相手(例:主人公のギャメルなど)も存在しますので、必ずしも万能というわけでもありません。


撹乱・情報操作などのために使用されるタイプ

 自軍が正確な情報を得るということも大切ですが、これは裏を返せば、敵方に偽情報を流したり、正確な情報を掴みにくくするといった工作も、また重要であるということになります。

 前述した魔法通信の撹乱・妨害も、そのような目的で使われる魔法のひとつですが、それ以外にも、以下のようなものが挙げられます。

不可視(姿隠し)、または「隠形」
 自分たちの姿を見えなくする魔法です。
 隠密行動を取るためには、欠かすことのできない魔法であると言えるでしょう。

 ただし、この魔法は物音まで消すわけでもありませんので、注意が必要です。
 また、自分の姿は消せても、足跡や臭いは残りますので、その点に留意する必要があります。

 この欠点を逆用して、敵兵に恐怖心を与える目的で使用されることもあります。
 要するに「怪奇現象」を起こしてみせるわけです。

 よりレベルの高い術者が相手方に居た場合、あっさり見破られることもありますので、細心の注意が必要です。


無音・無臭・足跡消し……など
 上述の「不可視」で消せないものを補うための魔法です。
 隠密行動をより完璧なものとするためには、欠かすことのできない魔法なのですが……

 これらをすべて使用することができるほどの高位術者なら、別に自ら敵地に潜入するような危険を冒さずとも、より安全な「千里眼」が使えるはずなので、あまりそのようなことは考えられません。
 従って、これらはむしろ敵要人の「暗殺目的」で使用されることが多いでしょう。
 そのような目的で利用された場合、恐るべきものとなります。

 やはり、敵方の術者のレベルが自分より高い場合には、看破される危険が常に付きまといます。


高速移動(韋駄天走り)
 通常の倍以上の速度で、大地を疾走する秘術です。

 どんなに巧みに斥候・偵察の任務を果たそうと、敵に捕まってしまっては意味がありません。
 また、敵に発見されたようなときには、馬鹿正直に自軍の方向に駆け戻るわけにも行きません。
 敵に自陣の位置を知らせぬため、いったんは明後日の方向に逃げておいて、敵をまいて後、改めて帰参する……という程度の注意を払うべきでしょう。
 そのようなことを可能にするために、この魔法による高速移動能力が必須となるのです。

※なお、この魔法は、(通常は)上記の「不可視」や「無音」などとの併用はできません。
 尋常の魔力と集中力の持ち主では、とうてい姿を消し、音を殺しながら疾走する……というような器用なことは不可能なのです。
 しかし、ドリュテスたちの中には、それをやってのけることのできる者たちも一部いるようです。

全軍不可視(全軍姿隠し)もしくは「全軍隠形」
 先述の「不可視」を大規模にしたものです。
 自軍を構成する、全ての人馬・車両・物資など、あらゆるものの姿を隠してしまいます。
「伏兵」による「待ち伏せ」攻撃のためには、大変役立つと思われる大魔法です。
 何もないと思っていたところから、いきなり大軍が攻めかかってくるわけですから、敵方の動揺と混乱は極めて大きなものとなり、味方の勝利は確実となることでしょう。

 何だか素晴らしい大魔法であるようですし、事実、消費する魔力も甚大ですが、難易度が高すぎて、あまり現実的ではない……というのが実情のようです。
 何故かと言えば、通常の「不可視」と同様、物音や臭い、そして足跡や車輪の跡までは消せないからです。
 つまり、この魔法による完全な「伏兵」を実現するためには、「無音」「無臭」「足跡消し」のスケールアップ版までも、同時にしっかりとかけなくてはならないのです。

 事実上、そんなことができるほどの超高レベルの大魔道士など、そうそう何人も存在するわけもないのでした。(^^;;;
(もし居たとしても、それだけ魔力があるのなら、攻撃魔法用として取っておくべきでしょう)


濃霧
 上述の「全軍不可視」と同等の効果を、より楽に出すための魔法です。
 要するに、ただ濃厚な霧を発生させて、自軍の姿を隠すだけのものですが、使い方によってはそれなりに効果を上げることができますし、魔力の消費もそれほどではないので、比較的低レベルの魔道士たちでも使いこなせるという利点があります。(実戦ではこれはかなり重要な要素です)

 霧が発生しても不自然ではない場所であれば、敵に怪しまれることも少ないでしょう。
 もちろん、砂漠の真ん中で白昼ふいに濃霧が発生したりしたら、如何にも妖しげですから、そのような使い方をしてはいけません。(^^;;;

 第一巻で、グラウコス・テシウス将軍が従軍魔道士たちに行わせたのも、この魔法でした。
 作戦をより完全に遂行するため、補助的な役割で使われたのでしたが、もともと霧の発生しやすい場所であっただけに、本場カルデリアの大魔道たちとは比較にもならない若輩者ぞろいのマウアの従軍魔道士たちでも、しっかりと「お役に立つ」ことができたのでした。

※この魔法は、敵に対してかければ、「目くらまし」としての効果もあります。
 いかに怪しかろうが何だろうが、濃霧の中では高速移動は不可能ですから、撤退時に敵の追撃を振り切るために用いられることも多く、その意味ではかなり使い勝手の良い魔法なのでした。

※これは「霧」の発生メカニズムを考えれば自明の理なのですが、大気中に一定量以上の水分が含まれていない場所では、この魔法は難易度が高くなります。(水が全くなければ、必然的に失敗するでしょう)


  

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