その11
「アグネアの怒り」または「ヴリトラの咆吼」
究極魔法・その1

 主人公ギャメルたちの時代からさかのぼることおyそ5000年、ヴァルヒャリア族とドリダリア族との戦いは激烈を極め、ルテラ世界を焼きつくした……と言われています。
 その時、互いの超戦士たちが用いたと言われる伝説的な破壊魔法。
 それが「アグネアの怒り」あるいは「ヴリトラの咆吼」と呼ばれる究極的な破壊魔法です。
 これらはそれぞれ呼び名は異なりますが、原理としてはほぼ同じものです。
 それがどのようなものであるのか、これから紹介しましょう。


「アグネアの怒り」の呪文
 いと深き水底(みなそこ)に眠れる、魔水霊(まがみずたま)よ……
 ひとつひとつなる重き水、
 ひとつふたつなるいと重き水、
 集(つど)わせたまえ、
 清めたまえ、
 凝り固まらせたまえ……

 重き水(デウテリウム)、
 いと重き水(トリティウム)、
 封じ込めよ(アポクリーズモス)、
 封じ込めよ(アポクリーズモス)……

 封じ込めよ(アポクリーズモス)、
 封じ込めよ(アポクリーズモス)、
 内側に向け爆発せしめよ(エクリクシス・ト・エントス)!

 内側に向け爆発せしめよ(エクリクシス・ト・エントス)!
 爆縮(インプロージオン)!

 爆縮(インプロージオン)!


解説
 少し科学の知識のある人でしたら、上の呪文を解読して「ぎょっ!」とされたことでしょう。

 そうです。
 これは「水素爆弾」そのものなのです。

 重水素(陽子1、中性子1……という分子構成の、水素の安定した同位体)と三重水素(陽子1、中性子2……という構成の、水素の放射性同位体)の混合体を魔法的な力場の中に封じ込めておいて、そこに超高温の熱魔法(およそ数億度に急速加熱することが必要)を加えて起爆させるというものです。
「冥王の怒り」(原子爆弾)による起爆システムよりもクリーンではあります(放射性物質は発生せず、とうぜん拡散もしません)が、破壊力は水爆そのもので、その威力は、凝集した重水素と三重水素の混合体の量に比例します。

 いくら「クリーンな水爆」であるからといって、これを乱用したらどのようなことになるかは、容易に想像していただけることと存じます。事実、ヴァルヒャリア族もドリダリア族も、それぞれに壊滅的な被害を被ってしまいました。

 過去への反省から、ヴァルヒャリア族もドリダリア族も、この魔法の技術は封印し、更に「いと重き水」たる三重水素の生産と貯蔵を半永久的に放棄しあったため、この魔法は永遠の禁呪となったはずでした。

 しかし……、


  

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